件の書取、昨日の時点であと4ページのところまで来ていた。今日で終わらせたい。中途半端な所で終わるのは嫌なので、少し余裕を取るべく普段より30分早く6時40分にカフェへ。
キタのチェーン系カフェは殆ど平日は7時開店なのだが、堂島のプロントは6時半からやっていて、こういう時に助かる。
早速書取へ。先に結末を知り得ないように気を付けながら進む。たっぷり時間があるので、じっくりと噛み締めるように。
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少してこずったが90分かけて終了。何とか終わった。784分(音楽が各節の前後に流れるので実際はもっと短い)を、197日かけて書き取った。終わって少し神妙な気持ちになった。
あらすじはWikiの通り。
(以下、ネタバレを含む)
- 作者:Flaubert, Gustave
- 発売日: 2001/12/15
- メディア: ペーパーバック
とにかく、なんか語りたくなる小説だ。この小説をテーマに、何人の人が論文を書いたんだろう。書取終わって少し時間が余ったので色々な事を考える。
前から、主人公のエマが放蕩と不貞の末に追い詰められ死ぬ、という話の大枠は知っていたので、どんなに酷い奴なのかと思いながら書取進めていた。実際のエマは魅力的だけど掴みどころがなく、性格を一言で表現するのが難しい。話が進むにつれ、周りの色々な思惑が折り重なり、エマを蜘蛛の糸のように絡み取っていくようにも感じられ、話の因果に対する解釈が難しい。
そしてそれが色々な風俗描写とともに、淡々と描かれていて、この小説の不思議さを際立たせていた。
表現的には特に、
・追い詰められたエマが、かつて育ったルーアンの修道院前のベンチに佇んで色々な思いに浸るところ。
・自殺を図ったエマの最期、外から乞食の歌が聞こえてきて、笑いながら事切れるところ
・ラスト、あまりにも寂しく周りが不幸になって終わるところ
あたりは印象深かった。フローベールの筆致に圧倒された。
語学的にはやっぱり難しかった。今までで間違いなく最難関。固有名詞を駆使した比喩や、延々とぶら下がる現在分詞、表現を引き締める難解な名詞化の数々に悶絶した。
高尾山あたりしか登山経験のない人間が、準備運動も無くいきなり剱岳に挑んだようなもんだから。
それでも後半は慣れて、予想より2ヶ月くらい早く終わった。どんなに難しくても新しい語彙だけが出続ける小説はないので、いずれは慣れてくるんだ。
副題にある地方風俗に加え、文化、宗教、歴史、地理、科学等、当時のバックグラウンドを理解してから読み返すと、もっと小説の世界を楽しめるのだろうなと思う。
この本、そもそもは、
「フランス語学習者ならボヴァリー夫人くらい読むだろ」(意訳)
みたいな煽りが「ボヴァリー夫人論」という本に対する書評の中にあって、それならと乗っかりたくなって挑んだのだが、こんなに長く1冊の本を読み進んだ事など一度もなかったし、かなり貴重な経験になった。
19世紀のフランス文学の白眉と称される「ボヴァリー夫人」を原書から書き取りきったという事実が出来ただけで嬉しい。(日本語訳で確かめながらだろとか突っ込むな)
実はこの書取を始めた去年の夏頃は、これをフランス語学習の集大成にしようと決めていて、終わったら大団円の形にして、「これで終わり、フランス語万歳!」みたいな感じで、学習を〆ようと考えていた。
でもやっぱり小説の書取は面白くて色々意欲が湧いてきたし、まだこの勉強法でも進歩はできる筈だし、予定を変更して他の小説を書き取る事にしたい。